愛をくださいZOO、愛を知らない僕。知らなくて、愛。

 好きになったかもしれないと意識してからは、どうにも、思うように接することができなくなった。それまで当たり前のように手をつないで(冗談めいて)たまにキスをした。セックスはしなかった。色男のように聞こえるかな。そういうフリをしているだけ。それに君も気づいているし、僕も気づいている。でも言及することはなく、あいまいな関係でゆるやかな幸せを感じている。僕は。君も、そう。そうであればなお嬉しい。恋をすると憂鬱になる。近々水族館に行くことになった。お魚よりも、それを見るその表情を見てしまいそう。海にも行く。海の向こうに得られがたい幸せを探してしまいそう。浮ついた気持ちで過ごしている。

 こういうときはお酒を飲むといい。氷をいっぱいに入れたお気に入りのグラス。角瓶とレモン炭酸を1:1でね。こういうときはこれくらいの濃さがちょうどいい。数杯飲んだころに、すっかり疲れてしまって。氷は最初の半分ほどになる。ペースは徐々に落ちて、やがて完全に溶ける。そのころに薄まってしまったハイボールのまずさ。心地のいいまずさ。もはやうまさとも言える。それがたまらなく好きだ。酒を緩和するようにそれを飲み干して眠りにつく。そうすればなんてことはない、もう晴れの明日がくる。それでいいのだ。バカボンのパパ。無責任男。

 友達に怒られた。「ちゃんと抱いてやらなきゃ男が泣くぞ」僕も友達も20代中盤で、年寄りとはもちろんいえないが、それなりに若い。なのに、ずいぶん古風な価値観だ。そう、そういえばやつは時計も高いものを買って服にもお金をかけて、酒をたらふく飲み、女をいっぱい抱く(ヤリチン)。古風な男だった。でも彼よりは現代的な価値観の僕は、すべてを賛同できず、笑って誤魔化すばかりだった。

 嫌いになったかもしれない。君への愛を誤魔化しているかもしれない。しかし、それ以前に、自分というものを誤魔化しているかもしれない。バンドがやれていない。やめてしまった。あんなに好きな音楽。嫌いな音楽。嫌いな君。好きな君。すっかりぐちゃぐちゃになって。泣きたくなって。泣けなくて。ああ、どうして。どうしてこうなってしまった。でもそんな日々もそれなりに楽しい。楽ってだけかもね。楽ならそれでいいじゃんすべてオールオッケー。

 思いは宙に吸い込まれるように消えるだけ。